雑巾(5)
雑巾が少年期に入ると和尚はある異変に気づきました。
雑巾は和尚以外の人間には心が無く、周りからは何を考えているかわからない人間と思われていたのです。
それは「雑巾」という名前が原因なのかはわかりません。
雑巾は周りから虐められていたかもしれません。
でも、和尚はわかりませんでした。
なにせ雑巾はあまり喋ることがないのです。
そんな雑巾が和尚に聞きました。
「何故、僕の名前は雑巾なの。」
和尚は考えても考えても、雑巾への適当な答えを見つけることができませんでした。
「親が付けてくれた唯一の名前です。大切にしなさい。」
それは思いつきで言える精一杯の返答でした。
それから和尚は悩み続けました。
雑巾の名前について。
雑巾への返答した言葉。
答えが何も見つからないまま日々を過ごしておりました。
或る暑い夏の日に大師を名乗ることができる高僧が避暑のために和尚の寺に訪れたときでした。
和尚は雑巾の事を話しました。
杉の下に置かれていたこと、紙の事、それを名前にした事、雑巾への返答の言葉。
高僧はそれを静かに頷きながら、笑顔で聞いておりました。
そして、或る言葉をおっしゃいました。
続く
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